「糖新生によって作られる糖は1日80g」の謎

つい先日ダルビッシュ投手が自主トレ中の柳田選手の食事内容を見て心配をしているというニュースがありました。

ダルビッシュ、ソフトバンク・柳田の食事制限を心配
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170114-00000552-sanspo-base&pos=2

 米大リーグ、レンジャーズのダルビッシュ有投手(30)が、ソフトバンク・柳田悠岐外野手(28)が取り組む食事制限を心配した。柳田が自主トレ期間中に鶏胸肉、卵白のみのゆで卵を中心に高タンパク、低脂肪、低糖質の特別食をとっていたことを報道で知り、「あの食事が本当なら筋肉を削るために頑張ってる状態になってしまいます。」と疑問を呈した。

この記事は下記のツイッターを取り上げたもののようです。

その柳田選手の食事内容というのがこちら。
ホークス柳田、限界突破へゆで卵地獄 初めて上半身を強化、寝起きに卵、白身だけ8個
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170114-00010000-nishispo-base

 朝食はゆで卵に野菜、果物、少しの炭水化物。昼食は鶏胸肉3枚ののったシーザーサラダ。夕食はまた鶏肉やマグロ、イカ、サーモンなど。節酒もした。食事後にプロテインも摂取し、成人男性に必要なタンパク質の約4倍を摂取する。この日の昼、知人に差し入れられたスパムおむすびが「来た日の夜に食べたチャーハン以来」の米だった。

筋肉の材料になるタンパク質と脂質を摂取していれば、「筋肉を削る」ということはないんじゃないかな?と思ってダルビッシュ投手の呟きに目を通してみると、どうやら「糖新生」を気にしていることがわかりました。

ダルビッシュ投手曰く、「糖新生には1日80gという限りがある」そうです。


とっっっっっっっっても気になったのでグーグル先生をフル活用してみたところ、それらしき記事に行き当たりました。
Substrate Metabolism in Surgery(英文)
http://link.springer.com/chapter/10.1007%2F978-3-642-57282-1_5

そこに載っていたのが下図です。
糖新生(断食)

前後の文脈を補足して、図の内容を言葉で書くと以下のようになります。

(体重70㎏の健康な男性では)長期間(5日以上)の絶食を行うと、肝臓と腎臓での糖新生のために筋肉のタンパク質20gと体脂肪180gが使用され糖新生が行われる。その結果、80gの糖が生成され脳を始めとする糖を必要とする器官で使用される。

恐らくこの論文のこの図だけを見て、もしくはどこかの孫引きで、ダルビッシュ投手のトレーニングを指導されている方を始め多くの方が「糖新生で生成される糖は1日80g」という考えになったのではないかと思います。

しかしこの論文を読み進めると、というか他の図を見るとあっさり「1日80g」とは限らないことが示されています。

まずは5日未満の絶食を行った際の糖新生等のエネルギー生成の過程です。
糖新生(短断食)

この図からは以下のことがわかります。

体重70㎏の男性が基礎エネルギー消費量(≒基礎代謝)1800kcalを消費する5日未満の絶食では、筋肉のタンパク質75gと体脂肪160gが代謝され、肝臓に蓄えられていた75gの糖と共に180gの糖、60gのケトン体、120gの脂肪酸となり、それぞれ必要とされる器官で消費される。
つまり105gの糖が糖新生によって新たに生成されていることになります。

次に負傷や感染した際の代謝経路と使用される栄養です。

糖新生(怪我)

急性の怪我を負った場合、栄養の利用には急激な変化が起こり、筋中のタンパク質250g、体脂肪170gが利用され、360gの糖が糖新生によって生成されるほか、60gのケトン体、130gの脂肪酸がエネルギー源として怪我の修復や各器官で消費される。

筋力アップを目指してトレーニングを行うという行為は、筋肉に負荷を掛けて微細な損傷を負わせることなので、上記の代謝経路のうち3つ目の「怪我や感染した状況」が近いと思われます。
一方でこの代謝経路の図には、「脳」で消費される糖orケトン体が入っていないので、そのための栄養も追加で必要になってくると思います。
以上から、しっかりとタンパク質と脂質を摂取していれば、糖を取らなくても筋肉等の損傷状況に合わせて体内で適正な代謝が行われ、「筋肉を減らしながらトレーニングをする」ということにはならないと私は考えます。

アスリートのパフォーマンスは色々な要素に左右されてしまうので、柳田選手が食事を変えたことによって成績が良くなるかどうかはわかりませんが、今シーズンの動向に注目です。

ちなみに「Gluconeogenesis 80g」で検索して1位にくるページにアクセスするか、以下のアドレスにアクセスしてもらえると、紹介させたもらった本の内容や図の一部を無料で見ることができます。
https://books.google.co.jp/books?id=p9MGCAAAQBAJ&pg=PA97&dq=Gluconeogenesis+80g&hl=ja&sa=X&ved=0ahUKEwjgyPOowMbRAhVHe7wKHU8nBmwQ6AEIHDAA#v=onepage&q=Gluconeogenesis%2080g&f=true

ここまで頑張って記事を書いた後にあらてつさんの記事を発見しました(笑)。
糖質制限食と気にしすぎ筋肉と糖新生編
http://ktkky.blog94.fc2.com/blog-entry-645.html

私の場合、1日の摂取糖質を20g以下にしていても、筋肉量は落ちませんでしたし、不惑を前にした今でも、腹筋8つに割れてますし、筋肉ビシバシです。
糖質制限食で筋肉溶けるんなら、私の体の説明は、ダレがしてくれるんでしょう。
ですから皆さん、「糖新生で筋肉が溶ける~」とか、「糖新生だけで必要な糖質はまかなえない」なんて、気にしすぎないように。

「糖新生によって作られる糖は1日80g」の謎」への2件のフィードバック

  1. 佐々木

    こんにちは。

    山本氏のツイッターからこちらに来ました。ダルビッシュさんは超一流アスリートですが、生理学についてはせいぜい山本氏の著作を読んで学習しているという水準なのでダルビッシュさんの流す情報にさしたる価値はありません。私は糖新生だけで筋肥大可能かということに大変強い興味を持っています。ビルダーによっては糖新生だけで十分だという人と、そうでないという人がいます。

    極めて有用な情報の共有していただいてありがとうございます。あらてつ氏の引用をなさっているということは、あなたは基本、糖質制限に興味をお持ちなのですね。

    返信
    1. えばと鍼灸マッサージ院 投稿作成者

      佐々木さん
      お役に立てたようで何よりです。
      山本さんの呟きには私も日々学ばせてもらっています。
      山本さんはもちろんダルビッシュ投手も発言内容などからすると、かなり勉強されていると思います。「価値がない」ということはないと思います。
      私も時々おかしいなと思った時だけ、突っ込まさせてもらっています(笑)。

      山本さん、早速調べ直したみたいです、80gから135gに最大値変更しましたね。
      https://twitter.com/claymoreberserk/status/821716042296606720

      ちなみに「オリンピック級のトップアスリート8人に30日間超低炭水化物食を摂取させたが,筋力,運動能力に影響はなかった」というデータを載せた論文もあります(英文)↓
      https://jissn.biomedcentral.com/articles/10.1186/1550-2783-9-34

      仕事柄、医療面から「糖質の害」に辿り着いたので、江部先生やあらてつさんの「糖質制限食」を学び、実践しています。

      返信

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