「シンスプリントの原因」-筋肉、骨膜以外に考えられる要因-

【目次】
1.序論
2.シンスプリントの一般的因果論と施術での矛盾点
3.原因とされる下腿内側の筋肉について
4.「筋肉の付着部位」と「痛みの好発部位」の解離
5.親指の刺激で痛みが改善する理由
6.誤解から生じた筋肉病因説
7.根本的な解決方法

1.序論
アスリートやスポーツ愛好家を悩ます怪我や痛みのうち、治りにくいものひとつとして脛骨の内側に痛みを生じる「シンスプリント」が挙げられると思います。
インターネットで「シンスプリント 原因」、「シンスプリント 治療」などと検索すれば、多くの知見が得られます。
それにもかかわらず、痛みが数ヶ月持続するなどなかなか改善せず、様々な場所で悩みを吐露されている姿が見られるのが、このシンスプリントという病能かと思います。
今回はこのシンスプリントについて徹底的に解剖生理学的に考えてみましたので、ご興味がある方は以下の本文もご覧いただけますと幸いです。

2.シンスプリントの一般的因果論と施術での矛盾点
一般的にシンスプリントは、「下腿内側筋群の疲労による柔軟性低下、特にヒラメ筋を主として後脛骨筋、長趾屈筋付着部が脛骨の表面を覆う骨膜を牽引して微細損傷(骨膜炎)をきたし、下腿内側の痛みを発生させるもの(ZAMSTのHP症例解説「シンスプリント」より)」などと言われています。
要するに「ふくらはぎの内側の筋肉を、過度に疲労させてしまうことで脛の骨(骨膜)が刺激されて痛みが生じている」という説明です。
もしこの考え方が正しければ、該当の筋肉を何かしらの方法で刺激するなどすれば、痛みは早期に改善していくはずです。
しかし実際には、ケアを行っているにもかかわらず、痛みがなかなか治まりきらないなどの悩みを抱えている方が相当数いるようです。

RUNNETトップ> ランナーの広場> ランナーの知恵袋「6週間以上もシンスプリントが治りません。」
RUNNETトップ> ランナーの広場> ランナーの知恵袋「オーバープロネーション対策」
Yahoo!JAPAN知恵袋「シンスプリントを患っている現高2でサッカー部…」
Yahoo!JAPAN知恵袋「【長文】シンスプリントについて真剣に悩んでい」
Yahoo!JAPAN知恵袋「シンスプリントに悩まされてます。」

全11症例と数は少ないながらも、私の施術経験からも同様の傾向が見てとれます。
しかし、シンスプリントと診断された、もしくはそれが疑われる様な脛の痛みにおいて、患部である脛や上記の筋肉そのものではなく、足の指、特に親指を刺激することで、数回の施術で痛みが大きく改善するか消失しています。

こういった一般的に信じられている(が、あまり改善しない)言説と大きく異なる考え方の下で行われた施術で、シンスプリントもしくはそれに似たような痛みが大幅に改善したのは何故なのでしょうか?

3.原因とされる下腿内側の筋肉について
まずシンスプリントの原因として度々挙げられている、ヒラメ筋、後脛骨筋、長趾屈筋がどういった筋肉なのか整理したいと思います。
まずは筋肉そのものの位置や形態について解剖学書で確認してみます。
※右下腿を後方から見ています。
※赤丸で囲っているのが該当筋肉です

「ヒラメ筋」
IMG_0311

「後脛骨筋」「長指屈筋」
IMG_0310
『プロメテウス解剖学コアアトラス』より

次に機能についてです。
上記の3つの筋肉に共通する働きとして、「足(距腿)関節の底屈」があります。
このことは、シンスプリントと診断される痛みの多くが、「つま先立ち」や「ジャンプで離着地する瞬間」といった「足関節の底屈方向への力発揮」の際に起こることと一致します。
ここまでですと、シンスプリントの痛みの説明として、上記の筋肉がその原因であったとしても何ら不思議はありません。
※それぞれの筋肉についてより詳しくは、各種解剖学書やrehatora.netさんのヒラメ筋後脛骨筋長指屈筋の稿をご覧ください。

4.「筋肉の付着部位」と「痛みの好発部位」の解離
冒頭で引用したように、「骨膜が刺激されて痛みが生じている」ということなので、これら3つの筋肉が骨に付着する部分を確認してみます。
※赤く塗りつぶされている部分が、各筋肉の付着部です。
IMG_0312

該当の3つの筋肉が脛骨に付着する部分は、脛骨の上部で、しかも内側だけでなく後面の広い範囲だということがわかるかと思います。
ここで頭の中に「?」が浮かんだ方は、かなりシンスプリントについて調べられている方だと思います。
なぜなら、シンスプリントの痛みの特徴として、「下腿内側に位置する脛骨の下方1/3に痛みが発生することを特徴とします(クレーマー・ジャパン「シンスプリント対策」より)」とあるからです。

「右脛骨内側下方」※赤線で囲んでいる部分
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https://totalbodymake.com/2017/06/03/post-1039/より

もし冒頭で引用した様に「(筋肉が)脛骨の表面を覆う骨膜を牽引して微細損傷(骨膜炎)をきたし」ているとしたら、解剖学的に考えて「脛骨の上部もしくは後面」に痛みが生じる方が自然かと思います。
しかし実際の症例では、脛骨の内側下方に痛みが生じることが多いです。
「筋肉が骨膜を刺激して痛みを起こしている」という説明には、解剖学的に考えてやや無理がありそうです。

5.親指の刺激で痛みが改善する理由
シンスプリントと診断された場合、つま先立ちやジャンプの離着地の際に痛みが出ますし、その際に筋力発揮しているのは下腿後面の筋肉であることに間違いありません。
しかしそれらの筋肉にアプローチしても、痛みが治らないことがあるばかりか、解剖学的に見た場合、「筋肉が骨膜を刺激すること」を痛みの原因とすることにもやや無理があるのです。
「筋肉病因論」がシンスプリントの痛みと辻褄が合わないとしたら、一体何が痛みの原因なのでしょうか。
「つま先立ち」や「ジャンプでの離着地」の際に、筋肉以外にも負担が掛かっている部分が無いか考えてみましょう。

そう「足の指先」です!!!

実際に足の指先を触診してみると、患部である脛を遥かに上回る圧痛が検出できることが多いです。
特に親指は負担が掛かりやすいためか、親指の爪の生え際に激しい圧痛があることが多く、そこをピソマなどで刺激してあげると、痛みが改善することが多いです。

もちろん「骨膜の炎症」の可能性もありますが、以上から全てのシンスプリントが骨膜の炎症によるものとは言い切れないと私は考えます。

6.誤解から生じた筋肉病因説
筋肉がシンスプリントの痛みの原因だとする論説は、以下の2点から生じた誤解なのではないかとさえ思えます。
・痛みが生じる体勢が「足関節を底屈した際」
・痛みの部位が「脛骨内側」
以上2点から、この体勢のために筋力を発揮し、かつ筋肉の部位もそれらしいヒラメ筋や長趾屈筋、後脛骨筋といった筋肉が痛みの原因とされてしまっているのだと思います。

7.根本的な解決方法
さて痛みのコントロールとしては上記の処置である程度改善可能ですが、根本的な解決ということになると、そもそもの原因であるランニングフォーム等の「動き」の改善が必要になります。
まずフォームそのものをいじる前に試していただきたいのが、下図に示すような片足立ちバランスの改善です。
kataashi-2
http://www.i-l-fitness-jp.com/no-tool/kataashidachi.htmlより

このポーズを左右の脚で行い、フラツキ具合の左右差を確認してください。
上図のような単純な片足立ちでは左右差を確認できない場合は、座布団などの柔らかいものの上で実施したりしてみたり、片足立ちのままジャンプやスクワットをしてみてください。
安定して立っていられる側の脚と、ふらつくなどして安定感に乏しい側と左右差が確認できるかと思います。
この左右差が、足部や足趾部に余計な負担を掛けたり、片側の脚にばかり負担を強いたいするなどして、シンスプリントの痛みを発生させていると考えられるのです。
従って、ふらつく方の脚のみ下記のストレッチとトレーニングを行って片足立ちのバランスを改善すれば、シンスプリントの痛みが軽減したり、再発を防ぐことができるはずです。
「ストレッチによる腰痛対処法-腰痛の原因は腰にあらず-」
「軸足の存在によって生じる臀筋の左右差とその解消方法~ランニング中に起きる膝痛を題材にして~」

またフォームそのものの改善としては「(足の親指で)地面を蹴る」という意識ではなく、「地面を足全体でキャッチする」という意識を持つのがいいと思います。
足の親指や下腿で地面を蹴る力はお尻やモモの筋肉に較べると極わずかなものです。
より大きな力があるお尻や太もも後面の筋肉を有効に使うには「地面を捉える」という意識の方がいいはずです。

あの福島大学女子陸上部を日本トップクラスに導いた川本監督も同様のことをおっしゃっています。
BS-i | 超・人 陸上監督/川本和久
http://www.jump.co.jp/bs-i/chojin/archive/060.html

引用開始

上から下へと足を振り下ろし、足が体の真下へと来た瞬間にトラックを強く「押す」。これが最大限に「力」を生み出す走法である。

足が離れる瞬間、トラックをつま先で、引っかくように蹴っているのだ。蹴ることで、僅かだが、力のロスが生まれている。

引用終了

地球とケンカしちゃダメということですね。
当院のシンスプリントの症例はこちらをご覧下さい。