「逆子の灸の効果」に関する科学的検証結果について

エビデンス

世の鍼灸師は「逆子には灸が効く」と言うが…

Googleで「逆子 灸」と検索すると、鍼灸院や鍼灸師による「逆子の鍼灸治療」、「逆子治療にはお灸が有効です」といった、なかなかに勇ましい文言が飛び込んできます。
また、全日本鍼灸学会からは「お灸で骨盤位(逆子)が治る」というそのものズバリな論考まであります。

一方でネット上には「逆子のお灸をしたが逆子のままだった」といった感想も見受けられます。

Yahoo!知恵袋「逆子灸について。34週2日の健診で逆子と言われ、翌日に産婦人科でやってる…」

Yahoo!知恵袋「逆子と言われておをしています。 31週の妊婦、初産です。 お灸でいま様子を…」

Twitter「逆子 灸 治らなかった」検索結果

「効くのか効かないのか、どっちなの?」、「効くとしたら、どれくらい効くの?」といった疑問をお持ちの方もいるかと思いますので、この記事では科学的研究から導き出された現時点での「逆子の灸の効果」について、一般の方向けに書いてみます。
なお、筆者自身は逆子治療の専門家ではなく、興味本位で本件について調べてみたところ、こういった類の記事が見つからなかったので、本記事を書いてみただけの一鍼灸師です。
また、筆者は統計にもそれほど明るくないので、その辺りにも誤解があるかもしれない点をご了承ください。

本記事の結論(科学的検証結果に関する個人的見解)

まず結論から書きます。
私が調べた限りで、且つ私の主観にはなりますが、現時点での「逆子の灸の効果」はこうなります。

「効果が無いという事は無さそうだが、多くの鍼灸師が主張する程の効果があるかはかなり疑問」

「随分と大それた事を言うな」と思われても仕方ない主張ですが、一応そこには信頼に足る科学的根拠があります。
実はこの「逆子の灸」、中国や日本といった鍼灸に馴染みがある国だけでなく、ヨーロッパ各国でも研究が行われています。
そして各種治療法に関する科学的検証を総まとめしたものに、系統的論評(システマティックレビュー)という物があります。
しかも、そのシステマティックレビューに有難い事に『骨盤位に対する灸による頭位回転』という今回の疑問にまんま答えてくれる内容の物があるのです
※骨盤位とは逆子の事です。

今回はこのシステマティックレビューの内容を主な情報源としつつ、現時点で明らかになっている「逆子の灸の効果」について深掘っていきたいと思います。
※システマティックレビューについて詳しくはJapanese Pharmacology & Therapeutics(JPT) ONLINEの解説記事ご覧頂くと良いかと思います。

ちなみに、鍼灸師などが「大半の逆子が灸で治った」と主張する際に根拠としてあげている研究の多くは、治療したかどうかに関係無く逆子が治った症例が含まれている症例報告の類であり、患者を治療群と観察(無治療)群に分けて比較するランダム化比較試験(RCT)ではないことがほとんどです。
※逆子に対する鍼灸治療の歴史や過去の研究などの全体像については、日本医事新報社さんの形井秀一先生の記事をご覧頂くとよろしいかと思います。

システマティックレビューが発表した主な結果

上記のシステマティックレビューが発表している主な結果は下記の5点です。

1.灸は無治療に比べて出生時の骨盤位数を減少させないという所見が得られた(P=0.45)
2.灸は無治療に比べて、経腟分娩女性の分娩前または分娩中のオキシトシンの使用を減少させた[リスク比(RR)0.28、95%信頼区間(CI)0.13~0.60]
3.灸では鍼療法に比べて、出生時の骨盤位数が少なかったという所見が得られた(RR0.25、95%CI0.09~0.72)
4.鍼療法と併用した場合、灸では無治療に比べて出生時の骨盤位数が少なく(RR0.73、95%CI0.57~0.94)、帝王切開による出生数が少なかった(RR0.79、95%CI0.64~0.98)
5.体位療法を併用した場合、灸では体位療法単独に比べて出生時の骨盤位数が少ないという所見が得られた(RR0.26、95%CI0.12~0.56)

以下ではこれらについて1つずつ深堀りしていきます。

0.本論に入る前に共有しておきたい前提事項

すぐに本論に入りたいところなのですが、その前に共有しておきたい前提があります。
簡単に言ってしまうと「現在の物理療法に対する科学的検証の限界」と、「国や地域によって異なるお灸に対する認識による影響」です。
この辺りの話をご存知の方は、この章はすっ飛ばしてもらって大丈夫だと思います。

とある治療法の効果を検証する際、客観的評価を行う為に、無作為に分けた複数のグループ(群)に対して、どのグループに本当の治療(介入)をしたかどうか、患者本人はもちろん、治療者や評価者にもわからない状況にできれば、純粋な治療の効果を測定する事ができます。
患者が治療を受けているかどうか分からなくする事を盲検化と言い、特に患者と治療者の2者を盲検化する事を二重盲検法と言います。この二重盲検法は投薬などの医療行為の効果を調べる際に採用されています。
※鍼灸治療の研究の場合、鍼灸を患者に施す鍼灸師(以下、施術者)と患者の状態を評価して方針を提案する医師(以下、治療者)の2名が存在する事が多いはずなので、整理しておく必要があると思います。

しかし、お灸を始めとした物理療法の場合、カプセルに入れるなどして見分けをつかなくできる薬とは異なり、患者自身はお灸の熱さなどの物理刺激を感じますし、施術者もお灸に火が付いているかどうかなどすぐにわかりますし、治療者も患者と会話すれば治療を受けたかどうかわかってしまう事がほとんどです。こういった状況を非盲検(オープンラベル)と言います。

非盲検による主な弊害として、「無治療(観察)群に割り振られた被験者にだけ、プラセボ効果とホーソン効果が発生しない」があります。これによって治療群の正確な介入の効果がわからなくなります。
※患者だけでなく治療者や評価者も盲検化すると、先入観による効果判定のブレ(バイアス)を防げるので、より質の高い研究となります。プラセボ効果やバイアスについてより詳しくは、バイエル ファーマ ナビの記事をご覧下さい。

そして、お灸という治療方法の特徴として、中国や日本などの地域では広く普及している一方、欧米ではややマイナーな治療法という側面があります。
特に中国では、鍼灸が長い年月を掛けて発展したという歴史的事実だけでなく、現在も鍼灸(中医学)が現代医療と同等に扱われていて、且つ病院でも日常的に行われている為、一般の方がお灸を信頼していて、プラセボ効果とホーソン効果がより大きくなることが想定されます。
実際、システマティックレビューに採用された研究の中にも、治療群のみに発生するプラセボ効果が、特にお灸に対して馴染みがあり、且つ信頼している環境では患者の心理面に影響が出て、より大きな影響をもたらしているのではないかという意見はありました。

Moxibustion was shown to be effective in a trial conducted in China. Our hypotheses were that there may be differences regarding the efficacy and the acceptability of the intervention in a Western context. Chinese women are accustomed to self-performing moxibustion for a variety of indications, and, therefore, there may be a lesser efficacy of the intervention in a context where the technique is less familiar. A placebo effect also may play a role, with improved efficacy if the intervention is culturally widely accepted and trusted.
(訳注:スイスで行われた研究において、お灸の有無で逆子の改善率に統計的有意差が確認できなかったという結果を受けて)お灸は中国で行われた試験では有効であることが示されました。私たちの仮説は以下のとおりである。「西洋では、お灸による介入の有効性と受容性に関して、中国でのそれとは違いがあるのかもしれない。」中国人女性は様々な適応症に対して自分でお灸をすることに慣れています。従って、その技術があまり知られていない環境においては、介入の有効性が低くなる可能性がある。介入方法が文化的に広く受け入れられ信頼されている環境であれば、プラセボ効果もまた有効性の向上に対して一役買うのかもしれない。※筆者訳

Guittier 2009 Moxibustion for breech version: a randomized controlled trial

また、お灸を受けられないとなった時に、中国人は心理的ストレスが大きい事をうかがわせる記述もありました。

It was very difficult for investigators to persuade subjects to accept randomization and the consequent risk of having to do without the therapy.
(中国で行われたこの研究では)治験責任医師が被験者に対して無作為化とその結果によっては治療(逆子の灸)が受けられないというリスクがあるという事を説得するのは非常に困難であった。※筆者訳

Moxibustion for correction of breech presentation: a randomized controlled trial

お灸に馴染みがある地域では、より大きなプラセボ効果とお灸を受けられないストレスが考えられる一方で、お灸に馴染みが無い地域では、お灸を行うという事がストレスになる事も考えられます。
お灸を行うストレスが原因なのかわかりませんが、イタリアで行われた研究Cardini 2005では、お灸を受けた65名中、14名が治療を一時的、もしくは完全に中断してしまったために、研究が途中で終了となっています。
このCardini 2005ではお灸に対する不満をアンケートしていて、65名中27名が匂いやお腹の痛みなどが不快であったと答えています。
Cardini 2005の被験者が途中で治療を止めてしまった正確な要因は不明ですが、この研究ではお灸の頻度が1日2回と他のヨーロッパで行われた研究(調べた限り、週2回や一日1回がほとんど)と較べて多かった事や、更にお灸を開始して15分経過した時点から胎動を1時間数えるという事も要求されているなど、被験者の作業量が他の研究よりも多かったことも離脱率が高い要因だったのかもしれません。
スイスで行われた研究Guittier 2009では、被験者は2週間毎日、病院もしくは自宅で1回お灸を受けるよう指示されていますが、平均の治療回数は10回で、54%の被験者が14回、つまり治療を毎日受け、更にお灸に対する認識でも90%以上の割合でポジティブなものだったという結果も出ています。
イタリアで行われた他の研究で、被験者の多くが治療を中断してしまったために、研究を途中でやめざるを得なかったという研究は見当たらない事からも、お灸に不慣れな地域の人間であっても、お灸そのもののストレスはそれほど大きくなく、「1日にお灸2回+α」というCardini 2005の介入方法が被験者にとってストレスが大き過ぎたと想像されます。
※離脱者がたくさん出て公に発表されなかった研究もあるかもしれませんが、確認のしようがないので、とりあえず本記事では上記の仮定で話を進めさせてもらいます。

これらがどの程度結果に影響しているかは正直言って不明ですが、「二重盲検で行われていない(無治療群にプラセボ効果とホーソン効果が発生しない)」、「中国などのお灸への慣れがある地域で行われた研究では、プラセボ効果が大きくなるかも&受けられないとなった際の心理的ストレスが生じる」といった状況で行われた研究だという事を頭の隅に置いて、以下を読み進めて下さい。

1.灸は無治療に比べて出生時の骨盤位数を減少させないという所見が得られた

前置きが長くなってしまいましたが、本題に入ります。
のっけから残念な結果ですが、内容について詳しく見ていきましょう。
この結論を導き出すのに採用された研究は中国(Cardini 1998)イタリア(Cardini 2005)スイス(Guittier 2009)で行われた3つの研究で、合計で594名の妊婦が対象となっています。
3つの研究の概要について簡単に表にまとめてみました。

著者発表年実施国被験者数ツボ方法頻度期間有意差NNT
Cardini1998中国260至陰棒灸1回/日※妊娠33週から2週間8
Cardini2005イタリア122至陰棒灸2回/日妊娠32~33週+3日から1~2週間
Guittier2009スイス212至陰棒灸1回/日妊娠34~38週のどこか2週間
※1週目は1回/日、2週目は2回/日
至陰は足の小指の爪の付け根の外側にあります至陰は足の小指の爪の付け根の外側にあります
至陰に棒灸する様子

灸の内容はいずれも「逆子の灸」として有名な至陰というツボ(経穴)を棒灸で温めるという至ってシンプルな方法です。
※中国ではお灸と言うと棒灸が一般的で、且つ世界の鍼灸のスタンダードは中国の方式となっているため、今回解説するシステマティックレビューに採用されている研究のお灸も全て棒灸です。

治療頻度は1日に1回か2回、妊娠週数と治療期間は「33週から2週間」、「32~33週+3日から1~2週間」、「妊娠34~38週のどこか2週間」といった違いがあります。
3つの研究を合わせると「有意差は確認できなかった」という結論なのですが、唯一有意差有りとなったCardini 1998の効果はどの程度だったのかをNNT(治療必要例数)という数字で深掘っていきます。
NNTはnumber needed to treatの略で、対照群と比較して1人に効果が現れるまでに何人に治療する必要があったのかを表す数字です。
Cardini 1998における「出生時の骨盤位数」という目的(アウトカム)に対するNNTは8でした。
従って、Cardini 1998からは「妊娠33週の中国人の逆子妊婦130名の至陰に2週間毎日お灸(棒灸)をした結果、無治療の130名と比較すると、8人に対してお灸をすることで出生時の逆子を1人減らすことができた」となります。
この人数を多いと考えるか少ないと考えるかは、個人の価値観や状況次第だと思います。
※治療必要例数(NNT)についてより詳しくはバイエルン ファーマの記事をご覧下さい。

しかし、「0.本論に入る前に…」にも書かせてもらったとおり、このCardini 1998はお灸に馴染みがある地域、中国で行われた研究なので、お灸を受けられたかどうかによって被験者の精神面に差が生じている可能性が高いです。
Cardini 2005とGuittier 2009の研究の方が、より正確にお灸の効果を表せていると考えます。
以上から、システマティックレビューが示しているとおり、「(妊娠33週を過ぎてから1~2週間毎日の至陰穴への棒)灸は無治療に比べて出生時の骨盤位数を減少させない」と判断するのが現状では妥当な判断だろうと思います。

また、帝王切開の施行数についても、上記のCardini 1998とGuittier 2009から、お灸と無治療という比較で検討されていて、「灸治療と無治療で違いは確認できなかった」となっています(リスク比1.05, 95%信頼区間0.87-1.26 被験者数472名)。

2.灸は無治療に比べて、経腟分娩女性の分娩前または分娩中のオキシトシンの使用を減少させた

オキシトシンは分娩誘発、微弱陣痛の治療目的に使用される薬剤で、元々体内に存在するホルモンということもあってか、重篤な副作用も起こりにくいようなので、この結果が妊娠・出産にどれほどの影響をもたらすのかは正直言って私にはよくわかりません。
ここではこの結論の確度について深掘りしていきたいと思います。

この結論は先ほども出てきたCardini 1998のみによって導き出されたものです。
先程の「1.灸は無治療に比べて…」でも書いたとおり、このCardini 1998の研究はお灸に馴染みのある中国で行われたランダム化比較試験(RCT)で、ヨーロッパなどで行われた研究と較べてお灸をした人とそうでない人とでプラセボなど心理面での差が生じてしまい、治療群と無治療群の差がより大きくなってしまっている可能性が高いです。
「0.本論に入る前に共有しておきたい前提事項」でも引用した文章ですが、Cardini本人も論文内のCOMMENTで以下の様に記しています。

It was very difficult for investigators to persuade subjects to accept randomization and the consequent risk of having to do without the therapy.
(中国で行われたこの研究では)治験責任医師が被験者に対して無作為化とその結果によっては治療(逆子の灸)が受けられないというリスクがあるという事を説得するのは非常に困難であった。※筆者訳

Cardini 1998 Moxibustion for correction of breech presentation: a randomized controlled trial

要するに、無治療群に割り当てられお灸を受けられないとなった人達のストレスがそれなりに大きかった事が想像に難くないのです。
そういった研究一本で導き出された結論なので、厳正な手順を踏んだシステマティックレビューとは言え、結論付けるのは一旦保留しておいた方がいいだろうと個人的には考えます。

ちなみに、どの程度の効果だったかを示す治療必要例数は5人でした。
経腟分娩は介入群81例、無治療群80例だったので、「妊娠33週の中国人の逆子妊婦130名の至陰に2週間毎日お灸(棒灸)をした結果、81名が経腟分娩となり、一方、無治療グループでは130名中80名が経腟分娩となった。更に経腟分娩となった被験者のみで比較すると、介入群の方が1/5の割合でオキシトシンを使わずに済んだ」という事になります。
5人に1人が薬を使わずに済んだとなると、かなり効果としては大きいようにも感じますが、オキシトシン使用のメリット・デメリットについてほぼ無知な身としては、これ以上の言及は控えようと思います。

3.灸では鍼療法に比べて、出生時の骨盤位数が少なかったという所見が得られた

これは灸と無治療ではなく、灸と鍼とで比較した研究をまとめた結果です。
と言っても、この結論もイタリアで行われた研究Neri 2007一編から導き出されたものです。
使用されたツボはこちらも至陰のみで、被験者は39名、全員初産婦です。

この研究では、「逆子の頭位への成功率はお灸単独で80%(12/15名)、鍼単独で28%(2/10名)、鍼と灸の併用で57%(8/14名)」という結果になっていますが、介入直後、出生時などといった、どこの時点での頭位の確認かの記載が論文自体にはありません。
システマティックレビューにも「It was unclear when fetal presentation was assessed.(どの時点で胎位の評価が行われたかが不明)」とあります。
また、本筋ではありませんが、鍼単独の改善率が2/10名で28%になるのも理解に苦しみます。

お灸に馴染みが無いであろうイタリアで行われた研究という点では、中国で行われた研究よりもお灸そのものの効果を測れていると思いますが、被験者数が各グループ全てで10人台、平均で13名と少ない上に、研究の評価点がはっきりしていない事から、この研究だけをもって結論付けるのは危険だと個人的には感じます。
ちなみに、サンプルサイズが13となると、信頼度95%、母比率50%と設定すると誤差は上下25%となるようです。
母比率の区間推定における必要なサンプルサイズの計算フォームより

4.鍼療法と併用した場合、灸では無治療に比べて出生時の骨盤位数が少なく、帝王切開による出生数が少なかった

こちらは2004年に発表された、イタリアで240名の妊婦に対して行われた研究Neri 2004一本から導き出された結論です。
この研究でも使用されたツボは至陰のみで、妊娠週数は33~35週、治療頻度は週2回で、期間は最長で2週間となっています。
先程のNeri 2007とは異なり、こちらは胎位の確認について「治療から2週間後」、「出生時」としっかり記載されています。
また、この研究では被験者の初産婦の割合について「観察群と介入群で有意差は無い」とあるのですが、観察群で48.3%、介入群で59.8%となっていて、介入群の方がより厳しい条件になっているにもかかわらず、出生時の骨盤位数と帝王切開が介入群の方が少ないという結果になっている点は驚きです。

統計的有意差はあるようですが、では実際にどれくらいの効果があるのか治療必要例数で見ると、出生時の頭位で6人、帝王切開で8人でした。
「イタリア人の妊娠33~35週の逆子妊婦120名に対して鍼と灸で至陰を週2回刺激し、無治療の120名と比較したところ、1人の逆子が頭位に回転して出産を迎えるには6人、帝王切開を1例減らすのに8人を治療する必要があった」という事です。
介入群にのみプラセボ効果とホーソン効果が起きている中でのこの数字は妥当でしょうか?少ないでしょうか?

ちなみに、このNeri 2004に記載されている鍼の方法はかなり衝撃的です。

The points were punctured with sterile disposable steel needles (0.3 mm in diameter, 52 mm in length) that inserted to a depth of 10-30 mm and manipulated until the patient reported the characteristic irradiating sensation, said to indicate effective needling, that is commonly called De Qi.
ツボ(至陰)に滅菌した使い捨てのスチール鍼(直径0.3mm、長さ52mm)を10~30mmの深さまで刺し、一般的に得気と言われる鍼の効果を示すとされる特徴的な感覚を患者が口にするまで操作(※恐らく、鍼を刺したまま回した(旋撚した)と思われます)しました。(筆者訳)

足の小指に3cmも鍼を刺したら、大概の人は貫通しそうですし、1cmの刺入でもほぼ間違いなく骨に達すると思うので、この記述は何かの間違いであってほしいです。

5.体位療法を併用した場合、灸では体位療法単独に比べて出生時の骨盤位数が少ないという所見が得られた

この結論は、中国で行われた3つの研究、Chen 2004Lin 2002Yang 2006から得られた結論です。
ちなみに、体位療法(postural technique)は日本でよく言うところの逆子体操のようです。

まず、どの程度の効果があったのかを示す治療必要例数NNTを掲載しておきます。
出産時に逆子だった妊婦は、逆子体操単独の群では231例中87例、お灸と逆子体操をした群では239例中24例。
NNT=1/((介入前有病者数/全対象者数)-(介入後有病者数/全対象者数))なので、1/(87/231-24/239)=3.6となり、NNTは4人となります。

つまり、これら三編の研究を問題無く信じられる内容だと仮定すると、「中国人の逆子妊婦239名に対して、至陰穴へのお灸と逆子体操を行ってもらい、他方、中国人逆子妊婦231名に逆子体操のみを行ってもらった結果、前者の方が4人に1人の割合で出生時の骨盤位数を減らす事ができた」となります。

この「4人に1人」という割合、今までの内容をご記憶の方はかなり驚かれたと思います。
「1.灸は無治療に比べて出生時の骨盤位数を減少させない」という結果があり、「4.鍼療法と併用した場合、灸では無治療に比べて出生時の骨盤位数が少なく」では治療必要例数は6人とある一方、お灸は逆子体操と組み合わせた途端、鍼との併用以上の効果が得られたことになります。
お灸は運動との相乗効果が大きいのかもしれませんし、何かしら研究の前提条件に違いが生じてしまっているのかもしれません。

さて、では続いて論文の中身についてです。
上記3論文は中国語だったので、内容についてはDeepLという翻訳サイトを使って読んでみましたが、正直言って「この内容でそこまで結論付けてしまっていいのかな?」と思ってしまうものでした。

まずChen 2004。
こちらは「頭位への回転」の基準が「超音波検査で頭側と診断された場合、または陣痛中に頭側で出産した場合(有效:治疗后经B超复查确诊为头先露者或分娩时胎儿以头先露娩出者;反之无效。)」となっていて、必ずしも出生時の胎位とはなっていません。
システマティックレビューも「Details of measurement of outcome unclear. (アウトカムの測定方法の詳細が不明)」と記載しています。

次にLin 2002。
こちらは介入について「胎児の位置が修正されない場合や再発した場合は、再発せずに頭位に変わるまで治療を続け、効果がない場合は他の対策を行いました。(未矫正或出现反复, 继续治疗, 直至转为头位妊娠并无反复, 或无效者采取其它措施)」となっていてて、正確には「妊娠週30-37週の逆子妊婦を、当初は灸+膝胸体位法と、膝胸体位法単独で分けて介入し、その後は状態に合わせて治療法を適宜変更した場合の逆子の改善率の差を比較した研究」となり、単純に灸と体位療法の併用と体位療法単独を比較した研究とは言えないように感じます。
お灸による治療後、逆子が治らなかった場合に、希望者に外回転術を施したという研究はありますが、外回転術という明記も無く、何を行ったか分からないのも気になります。
また、最終的な胎位の確認をどのタイミングで行っているかも明記されていません。
システマティックレビューも「Details of measurement of outcome unclear.(アウトカムの測定方法の詳細が不明)」と指摘しています。

最後にYang 2006。
こちらの論文も逆子から頭位への回転成功率を主な結果としていますが、どこの時点で頭位と確認したのかが記載されていません。
システマティックレビューにそういった指摘はありませんが、明記されていないのは気になります。(見逃してたらすみません)
更には逆子の回転率は初産婦か経産婦かで変わっていることがGottlicher SとMadjaric Jによって1985年に報告されているのですが、この研究ではどちらのグループにどれくらい初産婦と経産婦がいたのかが未記載です。
この点について、システマティックレビューでは「全員が初産婦だと仮定した(While it was not reported whether all women had singleton pregnancy, this was assumed.)」とあります。
著者に確認するなどできたと思うのですが、勝手に仮定していいものなのでしょうか?

その他にも、これら3つの研究全てが、被験者のグループ分けを「研究に組み込まれた日」としているので、割付の無作為化が不十分な点も気になります。
この点はシステマティックレビューでも、バイアスのリスクが高いとされています。

Risk of bias
Bias:Random sequence generation (selection bias)
Author’s judgement:High risk
Support for judgement:Group allocation by date of admission.

バイアス(先入観orデータの偏り)の危険性
バイアス:無作為割付順番の生成(選択バイアス)
著者の判定:ハイリスク
判定の根拠:研究に組み込まれた日によるグループ割付(※筆者訳)

※盲検化された試験の場合、この「研究に組み込まれた日」による割付方法は、治療者にどの被験者が真の治療を受けているか推測させてしまうので大問題になると思いますが、お灸の場合、治療時点でどちらのグループかは被験者にわかり、その後、治療者にもわかってしまうので、盲検化された試験ほどの影響は無いと思います。より詳しくは、バイエルンファーマナビの記事「無作為割付」をご覧下さい。

また、「0.本論に入る前に共有しておきたい前提事項」にも記載しましたとおり、中国で行われた研究は患者の心理面への影響が大きく、そのことが結果にも影響してしまう可能性が高いと思われますので、中国で行われた研究のみで結論付けてしまうのは危険だと思います。
同じ研究内容で、精神面への影響が少ないと思われるヨーロッパなどのお灸に馴染みのない国や地域で行われた研究もあるとより説得力が増すのですが、そういった研究は存在しないのかどうかわからないのですが、この論評には含まれていませんでした。

まとめ

以上が今回の記事となります。
結論としては、冒頭にも書きましたとおり「効果が無いという事は無さそうだが、多くの鍼灸師が主張する程の効果があるかはかなり疑問」といった辺りが妥当だと思うのですが、如何だったでしょうか?
また、逆子とも関連が深い帝王切開についても、本文「4.鍼療法と併用した場合…」で「お灸と鍼を併用すると帝王切開による出産が減る」とありましたが、その帝王切開自体は以前よりも技術が向上し安全になっているそうなので、以前ほど気にする事ではなくなっているようです。

もちろん、ここで採用されている「お灸」は全て至陰穴1つに対してのお灸で、且つそのお灸も棒灸で温めるというものなので、日本の鍼灸の実臨床で行われているであろう、三陰交穴などの他のツボ(経穴)を併用した場合や、棒灸ではなく透熱灸(米粒程度の大きさにこよったもぐさを皮膚に直接乗せて、そのもぐさを焼き切るお灸)を行った場合、更には出産直前までお灸を行った場合にどういった結果になるかまでは明らかにはなっていません。これらに関しては、現時点では個々人の判断になってくると思います。
今回取り上げたシステマティックレビューの内容は、あくまで「伝統的に逆子を治すツボ」とされてきた至陰穴1つについて調べた現時点で判明している結果です。
将来、研究方法が発展するなどして、「至陰穴や三陰交穴へのお灸は、それ単独で出生時の逆子を減らす効果がある」となる可能性もゼロではないです。個人的には、その可能性は余り高くないと思いますが。

ここまで「逆子の灸」に対してややネガティブな見解が多くなってしまいましたが、お灸は副作用も熱いのを我慢しすぎて火傷を生じるくらいのものですし、日本においてはせんねん灸などの既製品があしますし、自宅で自分でやる、もしくは同居人などにやってもらう分にはコストもそれほど掛からないですし、至陰は場所も簡単な上に、皮膚が厚いので水ぶくれの心配も他の部位に比べると低いと思います。
以上から、日本や中国を始め、お灸が身近な地域においてセルフケアとして行うのであれば、「安価なケア」の1つには成りえると思います。
他方、ヨーロッパなどお灸が身の周りにほとんど無いなど、自宅でお灸するコストが大きくなる場合は、コストパフォーマンスとしても推奨しにくいものになってしまうのではないでしょうか?

ご意見、ご感想はもちろん、誤りのご指摘等頂けますと幸いです。

参考文献
矢野 忠, 朱 江, CHO Ki-Ho. 日中韓鍼灸コミュニケーション. 全日本鍼灸学会雑誌 2011; 61(2); 130-149

【蛇足】本システマティックレビューの盲検化に対する評価の疑問点

CHARACTERISTICS OF STUDIESのCardini 1998のバイアスのリスク(Risk of bias)、Blindingの項目には、There was no blinding of participant and therapist, but the review authors judge that the outcome and the outcome measurement are not likely to be influenced by lack of blinding.(被験者もセラピストも盲検化されていなかったが、レビュー著者は盲検化の欠如によるアウトカムとその測定への影響は恐らく無いだろうと判断した※筆者訳)とあり、バイアスのリスクは低いとされているのですが、そのまま鵜呑みにしてしまっていいのでしょうか?
実際、Caridiniさんは中国で行った研究Cardini 1998で「お灸は出生時の逆子を減らす」という結論を得て、それを中国以外の国でも確認しようと更なる研究としてイタリアでCardini 2005を行ったのですから、研究者自身が「非盲検で行った事」が影響しているのではと疑っているのではないでしょうか?
実際、Cardini 2005にはこうあります。

The Italian multicentre RCT reported here was planned as a confirmatory trial of the therapy’s efficacy, and as an assessment of the ability to transfer a traditional Chinese treatment outside of the original ethnic,social and cultural context.
今回のイタリアでの多施設共同RCTは、この治療方法の効果を確認する試験として、また中国の伝統的な治療法がその治療法が発展した民族的、社会的、文化的背景の外でも適応するのかどうかを評価するために計画されたものです。※筆者訳


盲検化できていれば、人種による効果の差くらいしか違いが無いと思うのですが、わざわざ「民族的、社会的、文化的背景を抜きにした場合」と書かれているという事は、非盲検による影響を考えていると思われるのです。
何かしらご教示いただけますと幸いです。

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