【考察】ジョーダン・ヘンダーソン選手の左踵の痛みが起きていない理由

イングランド・プレミアリーグで今シーズン(16/17)好調を維持しているリバプール。
チームを支える中盤の底を務めるのは、イングランド代表でもキャプテンを務めるジョーダン・ヘンダーソン選手(愛称:ヘンド)。
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今シーズン目立った怪我もなく順調に過ごしているヘンドですが、昨シーズン(15/16)には左脚の踵に慢性的な痛みを抱えていました。
その為、満足なパフォーマンスを発揮することはおろか、シーズン当初の’15年8月17日のボーンマス戦から同年11月30日のスウォンジー戦での途中出場までの約3か月間、痛みのために欠場を余儀なくされていました。

踵の痛みと戦うヘンダーソン|山羊男のKOPスタンドブログ
2015-12-06 10:00:00

ジョーダン・ヘンダーソンは、3ヶ月の欠場を余儀なくされた踵の怪我が医学的な回復は見込めないものであり、今後もその痛みと付き合っていかなければならないと語った。

ヘンダーソン、足底筋膜炎に悩む。ファーギーの“指摘”には懐疑的

高名な外科医とも相談したものの、それを(完全に)取り去るよりも対処しながらやっていかなければならない現状にあるそうだ。

医者から「根本的な解決法は無い」とまで言われ、痛み止めの注射をしながら試合に出場していたヘンドでしたが、今シーズンは戦線離脱は一度も無く、リーグ戦14試合の全てに先発フル出場を果たしています。
しかも前線からの激しいプレスを採用し、運動量が求められるクロップ監督のサッカーに応えるように、走行距離もプレミアリーグ内で最長です。

まだシーズン序盤なので、痛みがあれば大事を取って休養することもあり得ると思いますが、そういったこともありません。ヘンドの性格からすると、痛みがあっても出場しそうですが。

ケアが上手くいっている、インソールを改良したなど、表には出てこない情報もあるかと思いますが、そういったことは取りあえず横に置いておいて、ここでは昨シーズンと今シーズンでヘンドのどこが変わって左踵の痛みが改善したのかを、画像からわかる情報を基に考えていきたいと思います。


1.15/16シーズンのヘンドの片脚立ちの状態

まず左踵の痛みを繰り返していた15/16シーズンのヘンドの脚の状態を見ていきます。左踵にのみ痛みを繰り返しているということは、左右どちらかの脚に異常がある可能性が高いので、片脚で立った瞬間の状態に注目していきます。特に不安定さが増す、股関節を内転したor内転が要求される状況に絞って見ていきます。
ちなみにヘンドの利き足は右です。
※股関節の内転角度と体の安定性との関係ついて、詳しくはメッシ選手の画像を題材に考察したこちらの記事をご覧ください。

【画像01】
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まずは痛みがあった左脚で立った瞬間の画像です。
こちらは’16年6月20日のEUROスロバキア戦で、ヘンドから見て左方向にドリブルを仕掛けている瞬間です。
体は大きく左に傾いていますが、左股関節を内転させてバランスを取っています。

【画像02】
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こちらは’16年1月17日の試合での様子です(左の#14がヘンド)。
画像01とは反対に、右方向に急激な方向転換を試みている状況です。
左脚で立っている時と比べると、股関節の内転角度が浅く、体幹部を左に曲げて(側屈して)無理矢理右脚を倒しています。そのため重心(お臍の辺り)に対して的確な脚のポジションが取れていません。

補助線を引くと、右股関節の内転角度が浅いことがよくわかるかと思います。
【画像01’】
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【画像02’】
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黄色い〇が股関節の位置を、赤線が支持脚を表しています。青線が左右の股関節を結んだ線とそれに直行する補助線です。青い補助線と赤い線が作る角度が「股関節の内転角度」になります。

15/16シーズンのヘンドの右股関節の内転角度は左と比べると浅く、更に同じく右利きのジダン選手と比べてもかなり浅いことがわかると思います(参考画像01参照)。

【参考画像01】
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http://blog.renaiss.ac.jp/club/blog/soccer_women/2012/09/より

ジダン選手レベルとはいかないまでも、右利きの選手であっても右脚で立った際にも左脚と同様かかなり近い股関節の内転角度を取れると、怪我の予防だけでなく高いパフォーマンスを発揮することができます。
※股関節の内転角度とサッカー選手のパフォーマンスの関係について、詳しくはメッシ選手の画像を題材に考察したこちらの記事をご覧ください。


2.今シーズンのヘンドの片脚立ちの状態

次に今シーズン(16/17)のヘンドの片脚立ちの状態を確認してみます。

【画像03】
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まずは踵に痛みがあった左脚で立った際のバランスです。
上の画像は’16年10月8日に行われたW杯予選でのものです。
画像01と比べても、左股関節の内転角度が深くなっていて、左脚で立った際のバランスはしっかり取れています。ようやくイングランド代表としてプレーしても十分なパフォーマンスを発揮できるところまでコンディションを高めてこれたと思います。如何に画像01の’16年6月20日のEUROでの状態が、’16年4月7日のドルトムント戦で負った左膝の怪我の影響でトップフォームから遠かったかがわかります。背番号もスティービーが着けていた#4です。

【画像04】
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次に15/16シーズンは内転角度が浅く、不安定だった右脚で立った際のバランスです。
こちらは’16年11月の練習風景(左がヘンド)です。
撮影する角度が真正面でないのが残念ですが、画像02とほぼ同じ「右に急激な方向転換を試みている」瞬間です。画像02と比べると股関節が内転しているおかげで、体を左に曲げる(側屈)する必要が無くなり、重心に対して適切な位置に脚があります。


3.15/16シーズンと今シーズンの画像の違いからわかること

以上から、15/16シーズンのヘンドは「右脚で立った時に左と比べて著しく不安定だった」ことがわかります。これによって右脚では地面を強く蹴ることが難しく、より強く蹴れる左脚の負担が右脚よりも大きくなっていたことが考えられます。その結果、痛みが一度良くなっても、試合やトレーニングのダメージが左踵に集中してしまい、頻繁に治療を受けながらシーズンを過ごすことになっていたものと思われます。
一方、今シーズンのヘンドは、右脚で立った時も15/16シーズンほど左と差がなく立てています。この為、右脚でも地面が蹴れるようになり、左脚の負担が減り左踵の痛みが出ていないと考えられます。


4.右脚でも安定して立てるようになった要因

ではなぜ今シーズンのヘンドは右脚でも安定して立っていられるようになったのでしょうか?
考えられる要因の一つとして、今シーズンからフィットネス&コンディショニングコーチが、アンドレアス・コルンマイヤーに代わったことがあげられます。

コルンマイヤーがどういったトレーニングを行っているのか画像検索で調べてみたところ、彼がバイエルン・ミュンヘン時代に行っていたトレーニング風景を写した画像が入手できました。

【画像a】
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【画像b】
andreas-kornmayer01
以上2枚はhttp://www.alamy.com/stock-photo-fitness-coach-andreas-kornmayer-m-instructs-pierre-emile-hojbjerg-52828824.htmlより

【画像c】
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【画像d】
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レバンドフスキのゲンナリ顔がツボです(笑)。

コルンマイヤーのトレーニング風景については下記のサイトで動画も発見できました。
http://www.downvids.net/bayern-munich-training-circuit-703683.html

画像を頼りにメディシン・ボールの重さを調べてみたところ、どうやら選手によって5kgと8kgと重さの違うものを使っているようです。

画像aはプランクという種目とそのバリエーションで、一般に体幹トレーニングと呼ばれるものです。
正直言って、このトレーニングで片脚立ちの安定性を高めることは困難です。
しかし画像b、c、dの様に片脚に荷重するトレーニングを行えば、当然片脚で立った際の安定性を高めることが出来ます。

以下は昨シーズンと今シーズンのヘンドの体に起こった変化と、コルンマイヤーが行うトレーニング内容とを突き合わせた推察です。
ヘンドがこの画像b、c、dのトレーニングを最初に行った際には、右脚に負荷を掛けた際には左よりも大きくふらつき、左脚と同じように膝と股関節を深く曲げてしゃがむことができなかったと思います。
そしてコルンマイヤーは恐らくこの左右差を見逃さず、「左の踵の痛みの原因は、右脚が弱いから生じているかもしれない」とヘンドにアドバイス。
真面目で踵の痛みが無くなるなら藁にもすがる気持ちだったヘンドは右脚のトレーニングを熱心に実行した。
その結果、ヘンドは画像02から画像04への変化が示すように、右脚の脚力を向上させることができ、左踵の痛みを再燃させず今シーズンの好調なプレーにつなげている。
以上で推察終了です。


5.なぜ14/15シーズンは左踵の痛みが無かったのか

15/16シーズンは左踵の痛みに苦しんだヘンドですが、ファンの方はご存知のようにその前の14/15シーズンは所属クラブのリバプールではキャリアハイになる54試合に出場し、計7ゴールをあげています。
踵の痛みによる欠場も無く、今もそうですがヘンドと言えば「走る選手」でした。
画像で右脚で立った瞬間を確認してみても、14/15シーズンのヘンドは15/16シーズンよりも右股関節を深く内転して立つことができています。むしろ股関節の内転角度だけに着目すると、右股関節だけでなく左も今シーズンよりも深く曲げられているくらいです。

【画像05】
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右の#4がヘンドです。
これは’14年9月8日のEURO予選のものです。

【画像06】
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これは’14年12月9日のFCバーゼル戦ですが、左脚で立った瞬間ももちろん安定しています。
画像03とほぼ同じ局面ですが、こちらの方がより大きく支持脚の左脚が地面に対して傾いていますが、骨盤はこちらの方が地面と平行に近いです。つまり画像03よりも深く股関節が内転できているのです。
これくらい支持脚の股関節が内転できていれば、リバプールはもちろん代表での活躍も頷けます。

右脚でも安定して立っていられたことから、14/15シーズンは大きな怪我も無く過ごせたものと思われます。
これだけ状態が良かったヘンドが15/16シーズンの序盤で左踵を痛め、しかもその怪我が長引いてしまった原因、つまり右脚の筋力と柔軟性の低下を招いたものは何だったのでしょうか?


6.左踵痛を長引かせた右中足骨の骨折

まず左踵の痛みそのものについて考えれらるのは、ベタですが「初体験の疲労」です。
人間誰しも初めて受ける刺激には、精神的にも肉体的にも大きく反応してしまいます。
14/15シーズンはヘンドにとって初めてシーズン通してレギュラーで試合に出続け、かつリーグと平行してヨーロッパの舞台、更には代表戦も戦うシーズンでした。年間の出場試合数はなんと63試合でした。
ちなみにそれまでの出場試合数は、13/14シーズン:48試合、12/13シーズン:47試合、11/12シーズン:52試合です。(http://www.soccerbase.com/より)

利き足と軸足の関係から、右利きのヘンドはもともと左脚の方が筋力が強いはずなので、怪我以前からやや左脚に頼った走りをしていたはずです。
従って、14/15シーズン中やそれまでも、スプリントの回数が多い試合の後や、試合日程が過密な頃などには多少左踵に痛みが出ていたと思われます。
しかし年間50試合程度までであればもっていた左踵でしたが、14/15シーズンにはそれまでよりも一気に10試合以上多い試合数をこなしたことで、左踵へのダメージも今までにないものになったと思われます。
オフシーズンを挟んでも回復が間に合わず、15/16シーズン当初の負傷欠場につながったと思います。表沙汰にはなっていませんが、14/15シーズンの終盤には左踵はすでにかなり痛みがあったかもしれません。

更に’15年9月の練習で右脚の中足骨を接触プレーで骨折してしまいました。
骨折している間、右脚はトレーニングはもちろん、日常での荷重すらしばらく行えなかったはずです。このことが右脚の筋力や柔軟性の低下を招き、復帰した後もより筋力がある左脚で地面を蹴って走ったり飛んだりすることになり、左踵痛の回復を遅らせ、かつ繰り返してしまったと考えられます。

リバプールに大打撃。主将ヘンダーソンが骨折で再離脱へ2015年09月20日(Sun)18時13分配信

苦しい戦いが続くリバプールに新たな悩みの種が増えてしまった。英『BBC』など複数メディアは19日、主将ジョーダン・ヘンダーソンが右足中足骨骨折で8週間戦列を離れると報じた。

しかし医者から「治療法が無い」と言われるほど困難な状況に遭っても、ヘンドは諦めずに専門家の指導の下トレーニングを積み、今シーズンの活躍につなげています。


7.ヘンドの例からわかること

左右の筋力&柔軟性の差が改善したとは言え、今シーズンも日程が過密になってきて疲労が貯まった際には、左踵の痛みが再発してしまうこともあるうると思います。
しかし「毎週末、場合によっては平日にも一度、全力で10km以上走りながら、なおかつ球体を何度も蹴る」などという過酷な運動を行っている人は極一部のエリート・アスリートのみが行っていることだと思います。
それだけ体を酷使している人間でも、左右の脚力差を改善したことによって(もちろんその他の要因もあるかもしれません)、数か月前まで悩まされていた踵の慢性的な痛みを改善することができました。
脚の似たような場所にシンスプリント膝痛といった痛みを繰り返し起こしているという方や、捻挫を繰り返しているという方は、15/16シーズンのヘンドの様に脚の状態に左右差があることがあります。
ヘンドと同様、片脚で立った際にグラついたり、深く曲げたりできない方の脚を鍛えれば、脚の痛みが消失もしくは緩和できるはずなので、ぜひ試してみて下さい。

これから日程が過密になってくるシーズン後半も今までのフィットネスを維持して、ジェラードが果たせなかったリバプールのリーグ制覇を達成してほしいですね!!!

参考記事
体幹トレーニングで体幹部の能力を向上させることは難しい―メッシ選手を題材に―
軸足の存在によって生じる臀筋の左右差とその解消方法~ランニング中に起きる膝痛を題材にして~
ヒップアップに一番効くエクササイズはこれっ!!!
トライアスリートの膝関節痛の原因となった股関節 ATC&鍼灸師 山下貴士

☆おまけ
実はシーズンが始まる前に「リバプールのフィジオが代わる」という情報を得て、コルンマイヤーが指導するトレーニング画像を見つけた時点で、ヘンドの慢性的な踵の痛みが解決されるかもしれないと予想していました。まさかここまで上手くいくとは思っていませんでしたが。
一応、その証拠画像を載せておきます(笑)。
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