腰痛を改善するお尻のストレッチとそのメカニズム

ロジカル・トレーニング

今回は腰痛をご自身で改善してもらえるお尻のストレッチと、お尻のストレッチで腰痛が改善するメカニズムについて解剖学的観点から書きたいと思います。
最初に具体的なストレッチの方法、後半に小難しい理屈を書いています。
計6,000字以上にもわたる長大な記事になってしまったので、興味のある部分だけでもご覧いただけると幸いです。

1.腰痛を改善するお尻のストレッチ

早速ですがストレッチの方法です。
下記のストレッチを行っても改善されない腰痛もありますが、有効なケースはとても多いです。
※下記のストレッチで痛みを感じた場合はただちに中止してください。

1-A.ストレッチ初級編

まずはイスに座った状態で行う初級編です。
※以下、全て右側での説明となります。

初級編・正面

ストレッチする側の脚を反対の脚のモモに乗せて、体を前に倒すだけです。

初級編・右側面

至って単純な動き・体勢ですが、以下の2点を気を付けると、よりお尻をストレッチすることができます。
ストレッチする側の脚は、くるぶしよりも膝に近い部分を反対のモモに乗せる
体を前に倒す際は、お臍を突き出すように意識して体全体を前方に倒す

これならデスクワークの最中などでもこっそり出来るかと思います(笑)。

1-B.ストレッチ中級編

次に、床に座った状態で行う中級編のストレッチです。

中級編・正面

床に座り、上の画像の様になるべく深く左右の脚を組んで、初級編と同じくお臍を突き出すように体を前方に倒します

初級編・右側面

右側面から見ると、こんな感じです。
お尻はなるべく床に着けて下さい。

1-C.ストレッチ上級編

最後に最もストレッチ効果が高い上級編です。

上級編・準備態勢

前後に脚を大きく開いて片膝立ちした状態から

上級編・正面

膝を外側に倒します。

上級編・後面

後ろから見るとこんな感じです。
後ろ脚の膝頭が床に正対した方が、骨盤を床に対して平行に保ちやすく、効果が高くなります。

中級編・右側面

右から見るとこんな感じです。
このストレッチを行う際は、お尻は床に着かなくても大丈夫です。
それよりも骨盤が床に対して平行になるよう心掛けて下さい。
また初級編や中級編よりも強烈にお尻が伸ばされるので、それらでお尻に痛みを感じたという方が行う場合は慎重に行ってください。

バリエーション①.ベッドor台を使った方法

台やベッドを使用すると、上級編と同様のストレッチを少し楽に行うことができます。

臀筋ストレッチ(台使用)・正面
ベッドを利用した方法・正面

ベッドなどの台を利用した際は、ベッドに乗せた側のモモ(大腿)がなるべく正面に真っ直ぐに向く体勢を取ってください。
反対にモモが外に行けば行くほど(股関節を外転させればさせるほど)、お尻ではなく腿裏のストレッチになってしまいます。

番外編①:腰を反らした時の痛みが残る場合のストレッチ

上記のストレッチを行っても、腰を反らした時の痛みが残るという場合は、股関節の前面にある大腿直筋や腸腰筋といった筋肉が硬くなっていることがあります。
この場合、股関節前面を伸ばす下の様なストレッチを行ってみて下さい。
※下記のストレッチで痛みを感じた場合はただちに中止してください。

股関節前面のストレッチ・右側面

この体勢で右の大腿直筋や腸腰筋がストレッチされています。
ポイントとしては、できるだけ骨盤を床に押し下げて、左右の脚を大きく開くことです。必ずしも歩幅を大きく取る必要はありません。
あと、慣れていないと後ろ脚の膝頭(膝蓋骨)が地面と当たって痛いので、タオルを敷く等して対処して下さい。
※お尻のストレッチだけでも、これら股関節前面の筋肉も柔らかくなるのか、反らした時の痛みが改善する事もあります。

以上で腰痛に効果的なストレッチの説明は終了です。
「本当にお尻をストレッチするだけで腰痛が改善するの?」と疑問に思った、そこのあなた!
騙されたと思って、お尻のストレッチを行ってみて下さい!!!
ストレッチするだけならタダなので(笑)。
次の章にもありますが、当院での腰痛に対する施術でも、上記のストレッチをベッドに寝た状態で受けてもらうだけで、かなり痛みが取れることがあります。
疑問に思った方は、次章のメカニズムに関してもご覧いただけると幸いです。

参考情報①:仰向けで寝られないのもお尻の筋肉の硬化が原因

私の臨床経験上、「仰向けで寝ると腰に痛みがあって(orどうにも落ち着かないので)、 横向きやうつ伏せでないと寝られない」という状態も、今回ご紹介したお尻のストレッチで改善する事が多いです。ぜひお試しください。
ちなみに仰向けで寝れた方が、支持基底面の関係上、体の負担が少ないので眠りの質も良いはずです。
※腰の違和感を感じたまま無理に仰向けで寝ようとすると、睡眠の質は下がる危険性があります。

参考情報②:体重を利用しにくいお尻のストレッチ

「お尻のストレッチ」としてよく紹介されるものとして、下記画像の方法がありますが、この方法は体重を利用しづらいので、今回紹介させてもらった方法の方が、よりお尻の筋肉をストレッチできるはずです。

体重を利用しづらいストレッチ

2.お尻のストレッチで腰痛が改善するメカニズム

次にお尻をストレッチすることによって、腰痛が改善するメカニズムについて書いていきたいと思います。
少々長くなりますが、お付き合い頂けると幸いです。

2-A.腰そのものは捻れない

腰(腰椎)とお尻(臀筋)の関係について記す前に、腰椎の位置と可動域について確認したいと思います。「そんな事は知っている」という方は、「2-B.腰(腰椎)の動きを確かめてみましょう」までお進みください。

 2-A-a.腰(腰椎)の位置

腰椎とは下図に示すとおり、仙骨の上にあり、胸椎の下に位置する計5つの骨の事で、上から順に第1腰椎(L1)、第2腰椎(L2)・・・第5腰椎(L5)と呼ばれます。


https://publicdomainq.net/ より筆者改変
https://www.photo-ac.com/ より筆者改変
 2-A-b.腰(腰椎)の可動域

次に腰椎の可動域についてです。
各腰椎の間には椎間板という軟骨がクッションとして存在し、以下に示す可動域を確保しています1)

◆前屈:50°
◆後屈:35°
◆側屈:20°
◆回旋:左右それぞれ5°

前屈は50°、後屈も35°とそれなりに動きますが、回旋は5°という事で、時計の秒針が1秒で進む角度360°÷60秒=6°よりも小さい事になります。

別の文献にも当たってみましたが、下記のとおりでした2)

◆前屈:40~45°
◆後屈:40°
◆側屈:30°
◆回旋:椎体につき3-4°

回旋の「椎体につき3-4°」というのは、「椎体の上下の関節を合わせて3-4°」という意味の様で、腰椎全体での回旋の可動域は約10°という記載でした。

後屈と側屈、回旋の可動域が先ほどの文献より大きく、回旋は一応2倍という事になりますが、それでも約10°なので、秒針が2秒で進む角度よりも狭いです。

https://publicdomainq.net/ より筆者改変

下のサッカーのシュートシーンや、野球のバッティングでのような体勢を、「腰が回っている」、「腰を捻っている」などと日本語では表現しますが、実は腰椎そのものにはそれほど回旋の可動性は無いのです。

https://www.photo-ac.com/ より
腰が回ってる?
https://publicdomainq.net/babe-ruth-baseball-0019372/ より

2-B.腰(腰椎)の動きを確かめてみましょう

「でも腰は回ってるじゃん!」とお考えの方に、腰椎の回旋の可動域がいかに小さいか、以下の方法で実感していただきたいと思います。

【腰椎回旋可動域のテスト方法】
イスに座って股関節の動きを制限し、更に左右の腕を対側の肩に当て、胸椎の動きを制限します。

ここから肩甲骨や膝を動かさないよう気を付けて、右に腰を捻ります。

これで限界です

上記画像では、骨盤の動きはほぼ起きていないはずですが、これでも胸椎の回旋が若干入ってしまっていると思います。
従って、厳密な腰椎のみの回旋角度はもっと小さいはずです。
ご自分でも試してみて下さい。
いかがでしたか?
「腰」がいかに捻れないか、実感してもらえたかと思います。

2-C.動いている関節は股関節

それでは一体どこの関節が「腰を回すor捻る」際に動いているのでしょうか?
これも簡単な方法で確かめられます。
腕を体の側面に固定し、脊柱(背骨)が動かないようにします。

胴体(脊中)で回旋が起きないように気を付けながら、つまり肩の先(肩峰)と骨盤の位置関係が変わらない様にしながら、身体を回旋させます。

体幹部を固定した右回旋

先ほどの腰椎のみの回旋よりも、大きく体が右に回旋しているのがわかると思います。
この動きは体を回す側の股関節(この場合は右股関節)が内旋して、骨盤が回旋することによって実現できています。
つまり、「腰を回すor捻る」際の主役は腰そのものではなく、股関節と骨盤なのです3)
従って、先ほどのサッカーのシュートシーンや野球の打撃での腰周囲の状態をより正確に、且つ表現する側(指導者or解説者etc.)も受け取る側(選手etc.)にも誤解が起きない様な言葉にすると、「骨盤が回っている」になると思います。

ちなみに、股関節の可動域は中立位(単純に立った姿勢)を基準にすると、以下のとおりとなっています4)
☆屈曲:140°
☆伸展:20°
☆内転:30°
☆外転:50°
☆内旋※:40°
☆外旋※:30°
※股関節屈曲伸展0°での数値

股関節の屈曲と伸展

これで屈曲は約90°、伸展20°程といったところでしょうか。

股関節の内転と外転

内転、外転共に20°程です。

股関節の内旋と外旋

先程の「腰の回旋」時の股関節の内旋と同様、前屈の際は股関節の屈曲、後屈の際は伸展、側屈の際は対側の股関節の内転を伴う事によって、「腰の動き」は可動域を確保しています。
股関節の運動の有無による可動域の違いについては、以下の画像をご覧下さい。

体幹部のみの前屈(左)と股関節の屈曲も伴った前屈(右)
体幹部のみの後屈(左)と股関節の伸展を伴った後屈(右)
体幹部のみの側屈(左)と対側の股関節の内転を伴った側屈(右)

前屈は股関節の屈曲可動域も140°と大きいので、股関節の動きの有無で可動域が大きく変わるのがわかると思います。
伸展と側屈も前屈ほどではありませんが、だいぶ角度に違いが出ます。

以上で、「腰の動き」を大きくするには股関節の可動域が重要な事、特に回旋動作では非常に重要だという事がご理解頂けたかと思います。

2-D.股関節の動きを妨げるお尻の筋肉

前置きが長くなりましたが、最後に「お尻と腰痛の関係」について見ていきたいと思います。
お尻の筋肉、臀筋は正確には大臀筋、中臀筋、小臀筋の3つに分けられ、その作用も少し異なるのですが、今回はメインの働きとなる、股関節の伸展、外転、外旋に絞って話を進めさせてもらいます。

臀筋の作用

臀筋が硬くなってしまうと、これら臀筋の作用と反対の動き、すなわち股関節の屈曲、内転、内旋が制限されることになります。

臀筋の硬化で制限される動き

繰り返しになりますが、体幹部を前屈する際には股関節の屈曲、同様に側屈する際には対側の股関節の内転回旋する際には同側股関節の内旋を伴います。
つまり臀筋が硬くなると、股関節の動きが悪くなり骨盤の動きが制限されてしまい、その分を腰(腰椎)で代償しようとして、過度な負担が腰に掛かる事が予想されます5)
反対に臀筋が柔らかければ、股関節を十分に動かすことができ、骨盤が十分に動くので、腰(腰椎)の負担を小さくすることができます
このことが、お尻のストレッチで腰痛が改善することが多い根拠のひとつなのではないかと考えます。

また捻りきったり、反りきったりする姿勢以外にも、洗顔時の中腰やくしゃみといった腹圧が急激に高まった状態になると腰に痛みが生じることがあります。
臀筋のストレッチは、こういった腰痛にも有効な事が多いです。

以上、お尻のストレッチで腰痛が改善するメカニズムについてでした。
腰痛(の治療)でお悩みの方はぜひ一度お試しください!!!
腰痛のせいで治療院に行かなければならないという人が、1人でも少なくなってくれることを祈って、本稿を終了させてもらいます。

【注意点】
お尻のストレッチで腰やお尻そのものに痛みが出る場合は、直ちにストレッチを中止してください。無理にストレッチをしても、痛みは改善しないことが多いです。

参考文献
1)プロメテウス解剖学アトラス 初版 解剖学総論/運動器系.医学書院.p.101
2)からだの構造と機能 2 第2版.ガイアブックス.p.24-26
3) 健常成人における体幹回旋動作と影響する因子の検討 理学療法学Supplement 2013(0), 0899, 2014 公益社団法人 日本理学療法士協会
4)プロメテウス解剖学アトラス 初版 解剖学総論/運動器系.医学書院.p.386
5)腰椎-骨盤リズムが変化する要因の検討 東海スポーツ傷害研究会会誌:Vol.36(Dec.2018)

おまけ:お尻のストレッチに行きついた経緯

私が勉強したある鍼灸治療法では、大臀筋の起始部を鍼で刺激して、腰痛を始め様々な疾患を治療するという方法があります。

https://www.ac-illust.com/ より筆者改変

私自身も同部位への鍼刺激で、腰痛を改善する事ができていたのですが、 そもそも腰に痛みを訴えられている方の患部周囲を触診すると、腰(腰部脊柱起立筋)そのものは押しても気持ちいいくらいで何ともなく、一方でお尻の筋肉、特に臀筋の起始部を押すと飛び上がるくらい痛むということが多々あり、「何でだろう?」という疑問が頭の片隅にありました。
そして、ある日「鍼は苦手or嫌だと言う人に対して、臀筋の起始部をマッサージで刺激してみたらどうなるのだろう?」と思い、何人かの患者で試してみると、ほとんどのケースでかなりの痛みが改善しました。
※臀筋起始部以外にも腰痛を改善できる刺激箇所(ツボ)はたくさんあります。
次に「臀筋の起始部を刺激しているという事は、ストレッチで臀筋を緩めても同様の効果が得られるかもしれない」と思い、また何人かの患者で試してみたところ、これまた多くのケースで痛みが改善しました。
もちろん、腰そのものを刺激しないと改善しない腰痛もありましたが、現在では腰痛でお悩みの方がいらした際には、よほど特殊な事でもない限り、ほぼ全症例で臀部を刺激しています。
なお、刺激方法によって効果に差がある様には感じません。

以下は腰そのものにはほとんど触れず、お尻に鍼やストレッチを施したことで腰の痛みが改善した症例です。
バドミントンのハイクリア動作で生じる左腰痛 40代女性
仰向けで寝られない右腰痛 60代女性
「軽度のヘルニア」と言われた腰痛 30代男性
「背骨の間が狭くなっている」と言われた腰痛 50代女性
施術前日に発症した側屈と回旋で生じる腰痛 30代男性

以上、何かしら参考になりましたら幸いです。

本記事は2015年6月13日投稿のブログ記事を、改題の上、大幅に加筆修正しました。

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