椎間板ヘルニア等による「神経の圧迫」について

腰痛や首痛などで病院に掛かった際に、腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症といった診断を受け、実際に神経が圧迫されている画像を見せられて「ここが神経を圧迫しているので痛みが起きています」と説明されることが多いと思いますし、実際に当院にいらっしゃる方もそういった方が多いです。
しかし、こういった画像診断上の異常は、痛みやしびれの原因でないことがほとんどです。
このページでは、「神経の圧迫で痛みが起こる」という考えが如何に生理学的矛盾を抱えているか、またそのことを証明する研究などを紹介していきます。

<目次>
1.「神経の圧迫」で起こりうること
2.『「神経の圧迫」で痛みは起こらない』と主張する医師やそのことを支持する研究
3.「神経の圧迫」で痛みが生じることもあるが…
4.終わりに


1.「神経の圧迫」で起こりうること

まず「神経の圧迫」によって「痛みが生じる」ということが、如何に生理学的に考えて大きな矛盾を抱えているか説明させてもらいます。
通常、神経の圧迫・絞扼によって生じる現象は、運動麻痺や感覚麻痺と言った「麻痺」のはずです。
下に示す橈骨神経麻痺による下垂手や、尺骨神経麻痺による鷲手、腓骨神経麻痺による下垂足がギプス固定の際に心配されるのは、神経を圧迫・絞扼し続けると、これらの「(運動神経)麻痺」を呈することがわかっているためです。

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これらの「運動麻痺」は、神経の圧迫によって脳からの「動かせ」という信号が、効果器である筋肉に伝わらなくなるために生じる現象です。

少々乱暴ですが、例えて言うなら、糸電話の糸が圧迫を受け続けている状態です。
糸(神経)がどこか途中で圧迫されていると、こちらの声(脳からの指令)が相手のコップ(筋肉)に伝わりません(筋肉を動かせません)。

一方、「痛みが生じる」という現象は「麻痺」とは全く反対に、皮膚や筋肉などに存在する受容器が痛み刺激を受信して、この刺激が神経を介して脳に伝わる現象です。
これは糸電話で言うと、こちらから発した声が相手に伝わっている状態です。

「ヘルニアが神経を圧迫することによって痛みが生じる」という説明は、本来「(運動or感覚)麻痺」を呈するはずの病態である「神経の圧迫」に対して、受容器が受信した「痛み」刺激が脳に達するという全く反対の現象をつなげてしまうという、生理学的に考えて全くもって摩訶不思議なものなのです。

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痛み学NOTE <第20回>「圧迫性神経障害の症状は「麻痺」か「痛み」か?」 – CHIRO-JOURNAL.COM
引用開始

痛みと麻痺は生理学的にも全く異なった病態である。感覚受容器は身体組織における物理的・化学的・熱刺激を電気信号に変換する器官で、その伝達は脱分極と再分極に依存する。痛みはその分極活動が活発に頻発されるもので、麻痺はこの分極活動が起らない。この全く異なった生理学的変化が、同じ病態に共存するはずはない。もしも麻痺と痛みが共存しているというのであれば、違う病態が混在した状態と言わざるを得ないだろう。

引用終了


2.『「神経の圧迫」で痛みは起こらない』と主張する医師やそのことを支持する研究

こちらの加茂淳先生というお医者様は、今までの教育で教えられてきた間違った考えを正そうと腐心されています。

心療整形外科(加茂先生のブログ)
junk2004.exblog.jp
2011年 06月 13日
医師は手術をしたくなるが、これは痛みの原因ではない
http://junk2004.exblog.jp/15752556/

引用開始

スミスチのームは腰痛患者を対象としたX線やMRI検査も問題視している。

腰痛には無関係な異常を見つけるだけに終わることが多いためだ。

40歳以上の成人の8割には、腰の部分に膨らみなどの変形が見られる。

医師は手術をしたくなるが、これは痛みの原因ではない。

こうした「異常」がCTやMRIに現れても、腰痛と結び付けることにはほとんど意味がない。

大半の腰痛は筋肉の緊張などによるものだから、画像では原因は分からない。たとえ手術をしても、その効果は市販薬や運動や体を休めることとほとんど変わらず、手術だけは大きな危険を伴う。

腰の部分に膨らみなどの変形が見られる=ヘルニアのこと

痛みやしびれのX線、MRI、CTなどの画像診断は、悪性腫瘍、感染症、骨折など明らかな外傷、リウマチおよびリウマチ類似の炎症性疾患の検査の意味しかありません。

引用終了

医学文献にもヘルニアの有無と痛みが相関しないことが報告されています。

正常人における腰椎MRIの異常所見の頻度
http://www.tvk.ne.jp/~junkamo/new_page_10.htm
引用開始

腰椎のMRI検査で時折見つかる“異常”所見が、どの程度の臨床的意味を持つか明らかではない。この研究では、腰痛の既往がない20~80歳の成人98人を対象に腰椎MRIを施行し、高率に異常所見が見つかったと報告している。
腰椎MRlで全椎間板の5椎間に椎間板ヘルニアがあるかどうか、以下の所見を基に観察した。椎間板膨隆、対称性に椎間板が脊椎管内に膨れている。椎間板突出、局所的に非対称性に椎間板が膨れてる。椎間板脱出、さらに高度に椎間板が突出している。診断する放射線科医の予断を減らすため、これら98例のMRIに腰椎患者の異常所見のあるMRIを交ぜ合わせた。

その結果、98人中52%に少なくとも1椎間以上の椎間板膨隆が見られ、27%に椎間板突出が、1%に椎間板脱出が見られた。加齢と共に椎聞板膨隆の頻度は増え、椎間板突出は活発な肉体活動を行っている人に多く見られた。2椎間以上の異常所見は38%に認められた。その他の異常所見として線維輪欠損14%、椎間関節炎8%、脊椎分離、および脊椎滑りがそれぞれ7%に見られた。
N Engl J Med 1994  Jul   14;331:69-73

引用終了
※太字強調は江波戸によるもの


3.「神経の圧迫」で痛みが生じることもあるが…

神経の圧迫によって痛みを生じる病態として、「異所性発火(興奮)」というものが存在するのも事実です。
「神経の圧迫で痛みが生じる」と主張されている方の主な根拠がこれなのですが、この異所性発火が起こるには特殊な条件が必要になります。
その特殊な条件とは「神経そのものが損傷・断裂している」です。

この神経そのものが損傷・断裂して生じる痛みを「神経障害性疼痛」と言うのですが、これは帯状疱疹後神経痛やRSD(反射性交感性ジストロフィー)、糖尿病性ニューロパチーなどで見られる「難治性疼痛」と言われる痛みです。
この状態になってしまうと鍼灸等の物理刺激で痛みを改善することはかなり困難です。
整形外科や鍼灸院等に来る「ヘルニアによる痛み患者」のほとんどが上記のような難治性疼痛とは思えません。
しかもヘルニアと診断された痛みでも、鍼灸やマッサージを施すと、その場で改善することが多々あります。
ヘルニアがその場で引っ込むとも考えづらいので、やはり筋肉の緊張やコリが改善して、痛みやシビレが改善したと考えた方が、生理学的に無理が無いと思います。

以上から、私江波戸は多くの方が抱えている腰や首などの痛みは、上記の様な難治性疼痛ではなく、MPS(筋筋膜性疼痛)や脳の誤作動によるものだと考えます。


4.終わりに

いかがだったでしょうか?
如何に「神経の圧迫」によって痛みが生じるという説明が、矛盾を抱えているかご理解いただけましたでしょうか?
どうか痛みやしびれで苦しんでいらっしゃる方々は、「ヘルニアが神経を圧迫して…」などという説明をそのまま信じないようお気を付け下さい。
もちろん私のような鍼灸師の言うことを100%信じる必要もありませんが。

2011年6月17日ブログ掲載の記事を加筆修正の上、再掲
※※2018年8月15日、章立てなどを加筆の上、内容も修正

冒頭画像はhttp://ogawa-seikotuin.com/pages/case/003313.htmlより